子持ち30代リケ女が転職して良かったと心の底から思う理由

私は、30代後半で、アカデミア(学問や研究に専念する人たちが過ごす世界)から、民間企業に転職しました。

全く畑の違う業界への転職だったこともあり、研究者仲間からも、現在の職場の同僚からも、

「結局のところ、転職して良かったの?良くなかったの?」

という質問を良くされます。

私の場合は、幸い私にとってとても働きやすい良い会社に就職できたこともあり、転職してとってもとっても良かったです。

この、「良かった」というのは、良いことも悪いこともあるけれど、良い事のほうが圧倒的に多いよ、という意味での「良かった」です。

アカデミアでの研究者としての人生に未練が全く無い訳ではありませんし、今でも、たま~にですが、研究を続けている人を見ると何ともいえない、敗北感とも焦燥感とも似た感情に苛まれます。

リケ女1号のように、現役でバリバリ研究して、研究で生計を立てている人と関わると、心のどこかで良いなぁ、という気持ちが湧いてきます。

活躍している研究者さんの出演しているTV番組を見るときも、ちょっとした敗北感を感じてしまい、純粋に楽しむことができません。

もし、自宅の近くに研究所などがあって、 今と同じ待遇で(←これ重要!)研究に従事することができるのであれば、もう一度研究がしたいです。

でも、転職以降の心の安定はかなりのもので、ここ数年はほぼ毎日、幸せな気持ちで朝を迎えることが出来ています。

血眼になってポストを探していた頃なら3年任期のポストでも大喜びで就任したと思いますが、もし今、

「5年任期のポストを用意したよ、研究費もバンバン使って好きな研究して良いよ」

と言われたとしても、全く迷わずに今の生活を選びます。

何がそんなに良いのか?

私にとっての、研究職から離れたことでの、といいますか、転職して良かったことを挙げてみます。

職を失う恐怖におびえなくなった

 准教授や教授にならない限り、大学の研究員/教員は「任期付き」で採用されることが多いです。

つまり、就職口をみつけても、短いと1年、長ければ10年、概ね3~5年程度で任期が切れて職を失います。

契約を更新してもらえる場合もあれば、はい、サヨウナラ、となる場合もあり、どちらになるかは任期が切れた時の研究室の財政状況や、人間関係などに左右されるため、任期が切れるころにならないと、どうなるか分かりません。

育ち盛りの子供を抱えた知り合いから、前年までは研究者として生計を立てていたけれど、任期が切れ、次のポストが探せなかったために税金が払えなくて困っている、という話を聞いたこともあります。

まさに「本当にあった怖い話」です。

私にとっては、新しいポストに就いたらすぐさま次のポスト探しに着手しなければならない状況や、簡単に無職になり得る状況は、ポス毒の全てのストレスの元凶はこれ! というぐらい辛いものでした。

公募に落ち続ける日々を送っていたので、

「今はまだ30代だからなんとかなるかもしれないけれど、40代、50代の転職の厳しい歳になって無職になってしまったらどうしよう、、、」

と、とても怖かったです。

だから、正社員という立場で就職できて本当に良かったです。まぁ、昨今の経済事情ではリストラや倒産のリスクはどこも少なからずありますけどね。それでも、


「あと3年で無職、、、あと2年で無職、、、来年には無職、、、 あぁまだ仕事が見付からない!!!!!!!!」


と、カウントダウンして心の健康が蝕まれていくようなことは全く無くなりました。正社員バンザイ。

明確な「休日」を得られるようになった

ポス毒時代は裁量労働(好きな時に働けば良いよ、でも何時間働いてもお給料は一定だよ、という雇用形態)で雇用されていたため、決められた休日がなく、暇があっても無くても研究をする日々を送っていました。

「この日は休んで良いよ」って決められた日があればもう少し休めるだろうに、、、などと思いながらも、 酷い時期には半年間、完全な休日は1日もない、といった感じで馬車馬のように研究してました。

いやー。若さですね。 今ではそんな生活、全くできる気がしません。

一方今の会社では、土日祝日有給休暇と、休日が明確に決まっていて、 仕事の事を考えない時間がかなり増えました。

私は「有給休暇は完全に自分の都合で取得するものだ」と思っているので、 自分の望むときにばんばん休暇を取得して、家族で数週間旅行に行ったりできています。

余暇を楽しむ、ということはポス毒時代にはあまり意識したことが無かったのですが、仕事のことを考えずに楽しむ時間を持つことがこんなに良いものだったとは。と感動すらおぼえました。

収入が増えた/安定した

日本学術振興会の特別研究員とか、研究機関の正規のポスドクという立場であればある程度の収入は確保できますが、研究室付きのポスドクとなると、 収入は研究室やボスの財政状況により大きく左右されます。

夫に収入があったため路頭に迷うことはありませんでしたが、私も実際、
 月収3万円で1年間
 月収8万円で半年間
過ごしたことがありました
(例え給料が無くても居場所があるだけマシ、という世界です)。

研究費があっても生活費がない。まさに「高学歴ワーキングプア」状態です。

自身が高学歴ワーキングプアである、ということは当時の私に 何ともいえないコンプレックスをもたらしていました。

転職により、大きな変化がなければ定年まで毎月安定して給料を受け取れるようになったし、年収も大幅にアップしました。

ポス毒時代は私の給料があまりにも不安定だったため、家族の生活は夫次第というところがあり、夫に何かあったら子供が育てられないかもしれないという不安が常にありました。

でも今は、夫に何かあっても全然大丈夫、むしろ専業主夫になって私をささえて下さい、ってなもんです。

子供が「博士になりたい」って言い出して、なかなか博士が取れずに30歳まで学生なんて事態に陥っても全然大丈夫、お母さんに任せなさい!という気持ちでいます。

なんだかんだ言ってもお金は大事です。

30歳を過ぎて、休みなく馬車馬のように働いても交通費程度しかもらえない時期を経験し、辛酸をなめたことがあるからこそ、収入を得ることのありがたみを奥歯が割れるほど噛み締めています。

好きな土地に住めるようになった

アカデミアでは職を求める博士の数が求人の数ををはるかに上回っている上に、自分の専門分野とマッチする募集がめったに出ないため、ポストがあれば何処へでも!という姿勢でいないとなかなか就職できません。

私も、職場の立地的な問題で夫と別々に暮らしていた時期があったし、何処で暮らしていた時も、引越しを前提に生活基盤を整えていました。

今は、住みやすい、環境の良い土地を選び、夫婦ともどもそこで就職して暮らしています。

私は人ごみに出ることが苦手で、満員電車での通勤には大変ストレスを感じます。

山があって、海があって、人が多過ぎず電車を利用しないで生活できる土地。

そんな土地での、山や海など、好きなものが自然と視界に入る生活は、心身の健康に大きく貢献しているように感じます。

気持ちの切り替えが上手くなった

研究で給与を得ていた頃は、研究室にいないときでもいつでも、 「こうすれば良い」、「こうしなければいけなかった」、 などなど、とにかく研究のことを考えていました。

これは、自分の研究テーマを持っており、 自分の研究を進められるのは自分だけ、 という状況だったからかもしれません。

研究に打ち込むことは大変楽しく有意義なことだったのですが、なにせ研究が生活の中心となっていましたので、研究で 失敗したり、上手く行かなかった時には酷く落ち込み、気持ちを切替られないまま帰宅し、不機嫌なまま家族に接してしまう、 といったような失敗も多くありました。

一方転職後は、初めの 2, 3 年は上手くできませんでしたが、仕事に慣れてくると、全ての物事を一歩引いて見られるようになりました。

仕事は人生を楽しむための金銭を得る一手段にすぎない、と考えるようになったので、例えば、トラブルの渦中にあっても、 動揺することはあまりなくなりました。

おかげさまで、仕事の不愉快な出来事を家庭に持ち込むことはなくなりました (よっぽど酷い出来事があった場合には夫に愚痴ったりしてますが)。

鈍感力もかなり養われました。民間企業に共通した問題なのか、転職先特有の問題なのかはわかりませんが、全然仕事しないのに高い給料をもらってる人がいたり、なまけものが存在するせいで本当なら自分がしなくて良い苦労を背負い込んでしまったりと、会社の中って、なかなか理不尽の宝庫なんですよね。 お局様も幅を利かせてますし。

最初の頃はいちいちイライラしてましたけど、 入社して3年が経った頃には、かなりの鈍感力がついており、 自分に実害の無いことは全く気にならなくなりました。

この鈍感力というものは、家族で過ごす時など、ごくごく日常の一幕においても、心の平穏を保って幸せな人生を送る上で 非常に大切なものだなー、と、身につけて初めて実感しています。

自己肯定感が高くなった

アカポスへの就職を目指して頑張っていた頃は、公募に応募しては落選する、月に何通も落選の知らせを受け取る、という日々を過ごしていたので、完全に自信を喪失していました。

自分には能力がない
自分は必要とされていない
自分はダメな人間だ

という気持ちになり、自己肯定感はかなり低くなっていました。

でも今は、

毎日絶好調、毎日楽しくて仕方がない、夫も子供も好きで好きで仕方がない、自分のことも大好き!景色がキラキラして見える!ヤッホーイ!

という気持ちで、自己肯定感もエベレスト級に高くなり、何事にもポジティブに、前向きになりました。

親が元気ハツラツと、幸せに過ごす姿を見せるのは子供にとっても良い影響があると思うので、とても良かったです。

以上、長々と書きましたが、ここで言いたかったのは、アカデミアから出たからこそ良かった、アカデミアにしがみつくぐらいなら民間に転職した方が良いよ、ということではありません。

私が日々感じている幸せは、きっとアカデミアで楽しく過ごしている方々もみなさん感じていることでしょう。

私は子供の頃から研究者を目指していましたし、研究が本当に好きでした。私にとって転職は、挫折そのものでした。

でも、今は本当に毎日楽しく暮らせています。

こんな世界もあったのか、世の中知らない事だらけだな、と思うと同時に、研究者としての自分の人生を客観的に捉え、適切な時期に自分と家族にとって最善の選択ができて良かったな、と思っています。

 

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